暗殺教室 数学最終問題 別解 (番外編)

「右の図のように、1辺aの立方体が周期的に並び、その各頂点と中心に原子が位置する結晶構造を体心立方格子構造という。NaやKなど、アルカリ金属の多くは、体心立方格子構造をとる。体心立方格子構造において、ある原子A0に着目したとき、空間内のすべての点のうち、他のどの原子よりもA0に近い点の集合が作る領域をD0とする。このとき、D0の体積を求めよ。」(『暗殺教室』より引用)

 これは、暗殺教室14巻(アニメ第2期12話)「空間の時間」において出題された問題である。二学期末テストにおいて、カルマ vs. 浅野学秀の勝敗を分けたこの問題、皆さんならどう解くだろうか。結論を先に述べると、

最適解:カルマの解法(科学的、ひらめき度高め)

通常解①:私の解法(科学的、ひらめき度低め)

通常解②:浅野君の解法(数学的、計算量甚大)

といったところである。以下、問題文の解釈、及び各解法について述べることとする。

 

・問題文の解釈、前提

 まずもって、この問題文を理解することが難しい。結局、何を求めれば良いかというと、「A0の体積+A0に所属する隙間(空間)の体積(=D0)」である。図で説明すると分かりやすいだろうから、体心立方格子構造を以下に示す。(平面図で示すが、立体を想像して欲しい。)

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図において、赤色の円はA0、青色の円はA0に最も近い原子、ピンク色の領域はA0に所属する隙間、水色の領域はA0に最も近い原子に所属する隙間である。D0というのは、赤色+ピンク色の領域のことであり、これを求めよと問題文には書かれているのである。(この図は簡便に書いてあり、ピンク色の領域は実際はもっと複雑な形であることに注意。)

 さて、この問題を解くにあたって、科学屋としては「単位構造当たり2個の原子が存在する(体心立方格子構造の性質)」ことは理解していなければならない。これが科学的解法では非常に重要となる。もっとも、これは高校化学の範囲であり、いくら椚ヶ丘中学校といえどもここまで授業は進んでいないはずである。であるから、浅野君が科学的解法を思いつかないのも仕方ないことであり、暗殺教室の経験からこれを導き出したカルマは本当に凄い。

 

・浅野君の解法

 この解法は、青色+水色の領域の形を求め、その体積を計算して全体から引き算することでD0を求める。特に、具体的に領域の形を求めるところが非常に数学的ではないだろうか。既に述べたように、この解法は計算量が尋常ではない。なので、概略のみを説明する。

 青色+水色の領域の形は、(青色の円1個+それに所属する水色の隙間)×8と考えることができる(図では平面だから×4に見えるが、立体的には×8である)。そして、なんやかんや計算すると、青色の円1個+それに所属する水色の隙間の形は、3個の三角錐+1個の六角推で表されることが分かる。各体積を計算すると、

立方体(単位構造)の体積=a^3

三角錐の体積=(a^3)/192

六角錐の体積=3(a^3)/64

であるから、

D0 = 立方体の体積 - 8 × (3 × 三角錐の体積 + 六角錐の体積)

     = a^3 - 8 × (3 × (a^3)/192 + 3(a^3)/64)

     = (a^3)/2

となり、D0の体積が求められる。

 

・カルマの解法

 この解法は、「単位構造当たり2個の原子が存在する」ことを用いている。当たり前の話だが、体心立方格子構造(の単位構造)は、原子とその隙間のみで構成されている。更に、全く同じ原子が、全く同じ間隔で並んでいるわけである。これはつまり、1個の原子当たりの隙間の体積は、全て均等であることを意味する。よって、単位構造内の2つの原子(A0と、8つの頂点を合わせて1個に換算した原子)は、隙間を均等に分け合い、かつ原子そのものの体積も同じであるから、単位構造そのものを二等分して分け合っているといえる。よって、D0の体積は単位構造(a^3)の半分で、(a^3)/2と求まる。

 

・私の解法(別解)

 さて、ようやく本題なわけだが、この解法も「単位構造当たり2個の原子が存在する」ことを用いている点は変わらない。ただし、厳密には「単位構造当たり、原子の1/8(=頂点の形)が16個存在する」と考えている。そして、この解法最大の特徴は、「原子の体積は分かっているから、あとは隙間を求めるだけでよい」という考え方にある。以下、実際に解いていくこととする。

 まず、全隙間の体積を求める。原子の半径をrとすると、

全隙間 = a^3 - 2 × (4/3)π(r^3)  ※(4/3)π(r^3)は球の体積公式

となる。ここで、「単位構造当たり、原子の1/8が16個存在する」のだから、均等に隙間を分配すると、

原子の1/8当たりの隙間 = {a^3 - 2 × (4/3)π(r^3)}/16

となる。ここで、A0は原子丁度1個であるから、

A0に所属する隙間 = 8 × [{a^3 - 2 × (4/3)π(r^3)}/16]

                               = {a^3 - 2 × (4/3)π(r^3)}/2

となる。よって、D0の体積は、

D0 = (A0の体積) + (A0に所属する隙間の体積)

     = (4/3)π(r^3) + {a^3 - 2 × (4/3)π(r^3)}/2

     = (4/3)π(r^3) + (a^3)/2 - (4/3)π(r^3)

     = (a^3)/2

と求まる。

 

 以上、3つの解法の説明であった。皆さんはどの解法が好みだっただろうか。やはり科学屋である私からすると、カルマの解法や自分の解法が綺麗だと感じる。数学屋の方は浅野君の解法が好きなんだろうか。まあなんにせよ、中学生時点でこの問題が解ける彼らが化け物であることには変わりない。中学生の私なんかは道中の漸化式でもう手が止まっていただろう、間違いなく。殺せんせーの授業、一度は受けてみたいと思うのは私だけだろうか、なんて。番外編、以上!!!